いいか、特別な才能を持たないほとんどの人間にとって、重要なのは、どう考えても、どの場所にいるか。つまりポジショニングなんだ。そしてポジショニングは誰にでも平等だ。なぜなら、「思考法」で解決できるからな (p,84)
久々の読書記録。実は、何カ月も前に旧朋から薦められたもので、二週間前くらいに通読したのだが、すっかり記録が遅れてしまった。
さて、本書は、"二人に一人が転職を経験する時代が到来しているのにも関わらず、企業は社員に成長の機会を与えず、転職できない人間を量産していること"に問題意識をもち、"転職できる人間になるための思考法"を伝授するものである。
構成としては、第1章~第4章のうち、基本的な考え方を4つのステップで説明する第1章に比重が大きく割かれ、他の3章は誰しも不安になる初めての転職を後押しするような内容だ。後者は、本格的に転職を考え始めた頃に読み直すのが効果的だと感じたから、ここでは、日々働く上でも持っておくべき視点を教えてくれる前者について、取捨選択しつつまとめておこう。
大事なのは「地の利」だよ、君ィ
『転職の思考法』の基本かつ核となるのが、「市場価値」だ。これは、いわば"自分の商品としての価値"であり、まずはこれを知るところから始まる。
「之を経(はか)るに五事を以てし、之を校(くら)ぶるに七計を以てして、其の情を求む」って感じだな。「まずは彼我の優劣の分析から!」というところが孫子っぽくて良い。
さて、「市場価値」は以下の3要素にて決す。
「市場価値」とは、この3点によってつくられる図形の大きさで表される。「市場価値」があれば報酬は高くなるし、会社に対して「転職」を切り札に交渉できるようになって、生活水準が向上するのである。どれか二つ以上が優れている状態が望ましい。
で、ここで重要になるのが2つの「ポジショニング」である。何故かと言えば、才能に関わらず誰でも平等に選択することができるからだ。
ポジショニング① 経験
優れた(=よりレアな)「専門性」をもつ者が、貴重な「経験」にありつける。つまり、市場価値を高められる。これは当然の道理である。
そして、「専門性」は学べるが「経験」は替えがたく、「経験」を積むには「専門性」が要る。「専門性」は誰にでも学ぶ機会が開かれているが才能や環境に左右されやすい一方、「経験」は他者に代替されにくい、というところがポイントである。
従って、20代で「専門性」を身につけ、30代で「経験」を積むことが大切だという。
ポジショニング② 業界
実は、「技術資産」・「人的資産」・「業界の生産性」の中で最も重要なのは、「業界の生産性」である。なぜなら、「業界の生産性」が高い、つまり、"今伸びている業界"や"既に生産性が高い業界"に身を置くだけで、大した能力がなくとも報酬が高くなっていくからだ。いわば、「上りエスカレーター」である。
その一方で、「業界の生産性」が低い、あるいは下がっている状態、つまり所謂「衰退産業」は「下りエスカレーター」で、流れに逆らってやっと現状維持できる――死に物狂いで働いても、生活は上向かない。だから、「技術資産」や「人的資産」の面で優れていても、業界選びを誤ると死ぬ。
しかし、「業界」は各個人に選択の権がある。だから、必ず「上りエスカレーター」を選ぶべきなのだ。
こっちの方が、より「地の利」って感じがするね。
ピボット型キャリア
さて、「市場価値」について説明した上で、本書では「ピボット型キャリア」という生き方を推奨する。要は、自分の強みを軸にしつつ、"伸びる業界"から"伸びる業界"へと渡り歩くというキャリアの立て方である。
では、"伸びる業界"を見抜くにはどうすれば良いのか。そこで、「仕事のライフサイクル」の登場だ。
仕事のライフサイクル
登場だ、とか言っておいてなんだが、「仕事のライフサイクル」自体は"伸びる業界"を見抜く"目"ではない。これは、仕事が生まれてから消滅(=機械によって自動化)するまでの"理"である。
まず、誰かが今までなかった仕事をつくりだす。これは「ニッチ」と呼ばれる段階で、その仕事ができる人はごくわずかなので、非常に価値が高い。この時点で、その仕事に携わることができれば、後々大きなアドバンテージになる。
次に、その仕事が儲かると知った連中が参入してくる。これが「スター」の段階で、次々に人が集まってきてはその仕事ができるようになる。会社は、その仕事を誰でもこなせるよう仕向ける。
「スター」段階によって、仕事の汎用化(多くの人が同じ仕事を遂行できるようになること)が進み、「ルーティンワーク」になる。ここでは、すっかりその仕事の希少性は失われ、仕事は「消滅」に向かっていく。
そして、終にその仕事を機械に任せられる段階に至るのが「消滅」である。
この内、「ニッチ」から「スター」は「上りエスカレーター」、「ルーティンワーク」から「消滅」が「下りエスカレーター」にあたる。
つまり、"伸びる業界"とは「上りエスカレーター」、「ピボット型キャリア」とは「ルーティンワーク」化する前に「ニッチ」~「スター」の業界に移ることと言えよう。
"伸びる業界"を見抜く鉄則
では、具体的に"伸びる業界"を見抜くにはどうすれば良いのか。いくつかルールがある。
- 10年前と同じモノを同じ相手に売る会社を選んではならない
- いくつものベンチャー企業が進出し、投資も集まっている業界を選ぶ
- 既存業界の非効率を突くロジックをもつ企業を選ぶ
まず、1は「変化がない」=「市場が成熟している」=「下りエスカレーター」と見ることができる。
次に、2について。強いベンチャー企業は世の中の流れに乗る。従って、ベンチャー企業が続々と進出し、投資も集まっている業界は「上りエスカレーター」にあることが多いという。
最後に3について。これは、今は日の目を見ていないが、いずれ花開くであろう業界を見切るという高度な業である。曰く、
「業界が30年以上続いていて、かつその業界の中に非効率があり、まったく違うアプローチで攻めている事業を持つ会社。そのロジックさえ正しければ、遅かれ早かれ、その企業は成長する」(p,82)
と。今価値があるものは同時に衰退に差し掛かっているとも言える。他方で、価値がない(見出されていない)ものは、これから上っていくと言える。それをロジックの正しさで見抜くのである。
今回はここまで。今度は思うところでも書いてみるかな。